「セリアおまえ、最近毎晩誘ってくるけどどうしたんだよ」
「別に…なんでもいいだろ? 嫌だった?」
ウルダハの安い宿の一室に裸のアウラ族男性が二人。セリアと呼ばれた男はベッドの中で気だるげに寝返りをうちながらシャワー室から出てきた男を見上げる。
「そういうわけじゃねぇけど…珍しいなと思って」
濡れた体を適当に拭って、もう一人の男、イヅナもベッドに潜り込む。
セリアとイヅナは定期的に体の関係を持つだけの友人同士ではあったが、なにせつきあいが長い。セリアはイヅナの他にも夜を共にする友人が沢山いて、実際に気分で色々な人と関係を持っていた。それをイヅナも知っていたから、毎晩誘ってくるなんて何かあったのでは無いかと感じるのも無理はない。
「アンタとするのが…一番なんも考えなくて済むから…」
ため息のようにセリアがこぼした一言を聞いて、イヅナは驚き目を見張った。
「なんか訳ありっぽいな。話きくぞ」
そっとセリアの頭を撫でるとむず痒そうに少し身じろぎして、普段の彼からは想像できないくらい小さな声でぽつりぽつりと事情を語りはじめた。
「は!? 半年も一緒に暮らしててセックスしてねぇの? 好きなのに?? 告白もまだだって??」
「……うん……」
普段の男遊びを知っているだけにイヅナも驚きを隠せない。
「たぶんだけどさ、相手、童貞なんだよね。しかもこっちのケもなさそうで…。男も女も知らないだろうから、なんか……言いだしにくくて」
「おどろいた…お前にもそんな配慮ができたのか」
「なんだよその言い方、失礼しちゃうなもう」
口を尖らせるセリアに向き合い、イヅナは少し真剣な表情をしてみせる。
「で、お前はどうしたいんだ?」
「どうって…」
こうして違う男に逃げて、目を背けて、一緒に暮らしてるのにいつまでも外泊し続けるつもりなのだろうか。そのまま伝えると、セリアは俯き静かになってしまう。
「とっとと襲っちまうなり、告ってフラれるなりしちまった方が楽だろうに」
「……それで、一緒にいられなくなるのは…嫌なんだよ…」
消え入りそうな小さな声でつぶやき、セリアはイヅナに抱きついた。
(カザンさんのこと、多かれ少なかれ引きずってるんだろうな…あの人もノンケだったし)
カザンというのは、昔セリアが惚れていた男だ。第七霊災の後、セリアはカザンと一緒に冒険者として生活していて、その時も体の関係を断られてこうしてよくイヅナに抱かれにきていたものだった。あの人が死んでもう何年経つだろう。
「ま、そういう理由でお前が俺に溺れたいってのは分かったわ」
「ん……」
仕切り直すようにイヅナはセリアに口づけた。ついばむような優しい口づけを少しずつ深くして、まだ躯に残っている欲情の種に火をつける。
俺にしたらいいのに。
昔も今も、結局口に出せない想いを胸に秘めてイヅナはセリアを抱く腕に力をこめた。
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