FF14

ガマンの限界(Side:S)

 セリアはウルダハを拠点に冒険者ギルドの依頼をこなして細々と生活していた。今日は労力の割に報酬が美味しい仕事を請け負う事ができ、正規の報酬とは別におまけで熟れすぎた果物を分けてもらった。
 一緒に暮らしている想い人は、今日の午前中に仕事の依頼物を納品しに行くといっていたから、今から帰れば丁度同じくらいの時間に帰宅できるだろう。そうしたら二人で果物を楽しめる。
 小躍りで帰路を歩むセリアの耳にリンクシェルの着信音が鳴り響いた。

「はーい、もしも~し! セリアです!」
『アルビンだ。なんだ、思ったより元気そうだね』
「えっ、アルビン!? 久しぶり~!! 珍しいね、アンタから連絡してくるなんて」

 連絡してきた相手はセリアの複数いるセックスフレンドの一人だった。ヒューラン族の男で体の相性がよく、比較的よく会っていた相手だが、想い人に出逢ってからは連絡していなかった事を思いだす。

『キミが半年近く連絡してこなかったからね。生きてるのかふと心配になってさ』
「え、そんなに連絡してなかった?」
『そうだよ。ま、生きてたならよかった。それじゃあね』

 それだけ伝えて通信を切ろうとするので、セリアは慌ててアルビンを引き留める。

「待って待って、折角連絡くれたのにそれはないでしょ! 久しぶりにえっちしようよ。アンタもそのつもりだったんだろ?」
『………ン…』

 小さな肯定にセリアはにっこりと笑う。彼がよくしている苦虫をかみつぶしたような表情が思い浮かんだからだ。

「ははっ、相変わらず素直じゃ無くてかわいいー! じゃあ今夜はアンタの所行ってもいい?」
『あぁ、大丈夫』
「やった~! 楽しみにしてるね!」

 リンクシェルの通信を切って、セリアは再びウキウキと歩き始めた。
 帰ったらチグと一緒にこれ食べてゆっくりして、夜は久しぶりにアルビンとセックスできるし、今日はいい日だなぁ。

 ────

「セリア、キミ、好きな人できただろう?」
「え? なんでわかるの?」

 ひとしきり互いを貪り合って、体を清めていたところのアルビンの台詞に、セリアは目を瞬かせた。

「わかるさ。俺のこと抱きながら、違う誰かを見てただろ」

 思う節があってセリアは俯く。

「半年も連絡してこなかった理由がわかってスッキリはしたけどね。ただ色々解せない所もあって…」

 理由、聞かせてくれるよな? と、有無を言わせない強い瞳で見つめられて、セリアは小さく頷いた。

 

「は!? 半年も一緒に暮らしてて手も出してなければ告白もしてない? 好きなのに??」
「それ、この前別なヤツにも同じ反応されたんだけど…」

 先日のイヅナとほぼ同じ反応をされたことにセリアは不服そうな顔をする。

「いや、キミを知ってる人なら大体同じ反応するだろうよコレは」
「みんな俺のことなんだと思ってるの…」
「性欲大魔神」

 即答された内容がなんとも的を射ていてセリアは何も言い返せなかった。確かにセックスは大好きだし、気に入った相手が男も大丈夫ならばすぐベッドに誘ってしまう。そうして増えた友人の数は数え切れないほどだ。

「冗談はさておき、キミはこれからどうするつもりなんだい?」

 イヅナにも聞かれた事を、今度はアルビンから尋ねられる。何度聞かれてもセリアの思いは変わらなかった。

「俺は……今のままがいい……今のまま、ずっと一緒にいたい…」
「無理だよ」

 強い否定の言葉にセリアは小さく震えた。

「残念だけど、変わらないものなんてない。今のままでずっと一緒なんて、悲しいけど無理なんだよ」

 哀しそうなアルビンの声。

「俺だって、妻とずっと一緒にいたかった」

 アルビンはセリアと出会う直前に家族を喪った。落ちこんで自暴自棄になっていたところでセリアに誘われ、半ば自傷するような気持ちで受け入れた。それから、なんだかんだセリアのおかげで立ち直ることができたので、少しでも彼の役に立ちたい。彼が後悔しなくて済むように。

「だから、せめて後悔しないように行動する必要があるんだ。今はまだキミも決心がつかないだろうけど、その時が来たら必ず気持ちを伝えなさい」

 いずれ別れがくる。遠い未来か、すぐ先かはわからないけども、伝えるべき時に伝えておけば、きっと良い方向に進むはずだ。

「でも……こわいよ……それでチグが離れて行っちゃったらどうしよう……」

 震えながらセリアはアルビンを抱きしめた。チグのことをこんな風に抱きしめたことはないけれど、隣に居られなくなることだけはどうしても嫌だ。

「その時は残念だけど諦めるしかないだろうねぇ」

 アルビンは笑って、子供をあやすようにセリアの背を撫でた。そんなこと言わないでよぉ、とセリアは半泣きだ。

「大丈夫。自分の気持ちを正直に伝えるだけで十分だよ。俺が知ってるキミからは想像できないくらい、誠実に相手と向き合ってきてるんだろう? ちゃんと伝わるし、悪いようにはならないはずさ」

 優しい声音で諭されて、セリアは静かに頷く。その様子が普段の元気な彼とあまりにかけ離れていたので、アルビンはセリアが思い人と上手くいく事を願わずにはいられなかった。

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投稿日:2025-01-17 更新日:

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