――少々肌寒くはあったが、ぽかぽかとした陽気の下でおれは百目鬼と肩を並べながら弁当を食べていた。
二度と言わねぇ
「でもホントによかったぁ。四月一日君元気になって」
「うん、心配かけてごめんね~ひまわりちゃん」
にっこりと笑いかけてくれるひまわりちゃんは本当にすっごく可愛くて、おれは隣にいる鉄面皮のことなんか忘れて幸せな気分に浸っていた。しかし。
「おい」
「んだよ!!」
「鮭のおにぎりどれだ?」
「はぁ!?」
見れば、隣で百目鬼はもくもくとおれが作った弁当を食べていたらしく、重箱の中身は随分と少なくなっている。
「あーッ! こら百目鬼お前、なに遠慮無くバカスカ食ってんだよ! おまえはひまわりちゃんのついでなんだぞ!!」
「…………」
おれの台詞に少々ムッとしたのか百目鬼は眉間にしわを寄せつつもモグモグと弁当を食べ続けている。
「本当に四月一日君と百目鬼君は仲良しだね」
さらに、ひまわりちゃんは俺たちを見ながらクスクスとカワイイ笑顔で笑ってる…。あぁ、チクショウ。やっぱり百目鬼なんか誘わなければよかった!
「あ、じゃあ私そろそろ行くね」
何かを思い出したようにひまわりちゃんがすくっと立ち上がった。
「え?」
「これから委員会の用事があるんだ。じゃあ四月一日君、百目鬼君、またね~」
「え? え…?」
きょとんとしている間にひまわりちゃんはにこにこと手を振りながら屋上から校舎の中へと行ってしまった…。折角作ったおかず…そんなに食べて貰ってないのに…。
と、いうわけで今おれは百目鬼と二人だけで屋上で飯を食べている―――
昨日の今日ではなんとも気まずくて、――普段からこいつと話すような話題なんて無いけれども――おれも百目鬼も黙ってただ弁当のおかずをつついていた。
『だから 四月一日もまた選べばいいわ 百目鬼君とこれからどう接するのか』
昨夜のユーコさんの台詞が頭をよぎる。
百目鬼に感謝していない…といえばそれは嘘になる。確かにあの時、あの瞬間は百目鬼が憎かった。けれどそれが自分が消えないように選んだ選択だと言われてしまうと、百目鬼を恨むことなんてできない。
ちらりと横目で百目鬼を見ると、やっぱりいつもの感情の読めない表情で黙々とおにぎりを食べていた。
そういえば、こうやって百目鬼と弁当を食べるのも久しぶりだ。
「…なぁ、百目鬼」
「あ?」
顔は動かさずに、視線だけをこちらに向ける。おれは気まずくてそっぽをむいた。
「…………?」
百目鬼が視線を元に戻したのがなんとなく分かった。
「…昨日は、ありがとうな」
ぼそりと小さな声で呟く。返答はなかった。たぶん聞こえなかったんだ。聞こえなかったのならそれでいい。今言ってちょっと後悔したし!
「気持ち悪ぃ」
「なっ…! おまえ折角人が礼を言ってやってんのになんだよその言い方!」
随分と間をおいてからの反応に、おれは頭に血が上って百目鬼を怒鳴りつけた。
すると奴はもう一度。
「気持ち悪ぃ」
もっ…もう二度と、ぜっっっっったい百目鬼なんかに感謝したりしねえ!!!
そう心の底から思った秋晴れの午後だった。
おわり