xxxHOLiC

誰もいない廊下

 気がつくと辺りはすっかり真っ暗で、四月一日は一人教室に取り残されていた。

誰もいない廊下


(やっべー…うっかり寝ちゃったよ。どうしよう)
 暗い教室の中で目が覚めた四月一日はぐったりと机にもたれ掛かった。放課後、一人で日直の日誌を書いていてそのまま寝てしまったらしい。はぁ~と息を吐いてぼんやりと宙を見つめる。
(昨日ユーコさんがまた夜中に突然わがまま言い出して寝不足なんだよな)
 未だ睡眠を欲している目を擦りながら四月一日は立ち上がった。時計を確認してみると結構いい時間だ。きっと今頃あの女店主はお腹を空かせて弱っているに違いない。
(早く行って飯作んないとな…何作ろ)
 早く作れて暖かいもの…やっぱり鍋かな、などと考え込みながら四月一日は筆記用具を鞄にしまい、日誌を片手に廊下に出た。
(うっ…)
 一歩廊下に出たところで四月一日はそれ以上足を踏み出せなくなっていた。
 電気も消されて暗闇に包まれた廊下には当然のごとく誰もいない、はずなのだが。四月一日にはヒトでないモノ達が見えていた。
(ど、どうしよう…)
 一刻も早くこの状況から脱出したかった四月一日だったが、残念ながら手には日誌を持っている。これは一度、職員室へ置きに行かなければならない。四月一日の教室から職員室へは結構な距離がある。職員室に向かうだけで結構な量のアヤカシがくっついてきてしまうはずだ。
 どうしようかと悩んでいる間に四月一日の存在に気付いたアヤカシ達がふらふらとこちらへ寄ってくる。
(…早く、いかないとダメだな)
 このまま帰るにしろ、職員室に寄るにしろ、早くこの場を動かなければ。
 四月一日は大きく息を吸って真っ暗な、そしてアヤカシだらけの廊下へ一気に走り込んでいった。

「うぅ…お、重い……」
 よろよろと壁に手をつきながら四月一日は職員室へ向かっていた。
 案の定、どんなに必死に走ってもアヤカシはわんさかと出血大サービスで四月一日についてきている。
 ずしり、とさらに重くなった感覚に四月一日の額から汗が湧き出る。
(やっぱり…そのまま帰れば良かったッ…)
 そのまま帰って、明日の朝一番に日誌を持っていけば良かったと、そう思っても今ではもう遅い。
「ち…くしょっ……離れろっての…」
 絞り出すように言っても、それをアヤカシが聞いて素直に離れてくれるはずもなく。
 ずりずりと足を引きずりながら前へ進んでいると、突然ざぁっと音を立てて四月一日にのしかかっていたモノ達が消えた。
「……?」
 突然の出来事に四月一日は呆然とする。
「大丈夫か?」
 ハッとして前方を見ると顔をしかめた百目鬼がこちらへと歩いてくるところだった。どうやら、百目鬼が近くにやってきたためにアヤカシ達は消え去ったらしい。
「…ん、あぁ…なんとか」
 未だに壁にもたれ掛かる形で歩いていた四月一日の肩を百目鬼はそっと支える。アヤカシの所為ですっかり疲れていた四月一日にはその手を拒む事ができず、素直に百目鬼の手をかりる。
「でも、お前…なんでこんな時間に?」
「それはおれの台詞だ」
「あぁ…それもそうだな」
 百目鬼の返答に四月一日は苦笑した。間違っても居眠りしていたなんて、百目鬼には言えないが。
 百目鬼は弓道場の鍵を返しに職員室へ行く途中だったらしい。そこで遠くから変な歩き方をしている妙な生徒を見かけて、不振に思って駆け寄ったのそうだ。妙な生徒、という下りに四月一日は少々ムッとしていたようだったが怒鳴り返す元気はまだないらしい。
 本人には言わなかったけれども、百目鬼はすぐに人影が様子のおかしい四月一日だと気付いたようであったが。

互いに職員室での用事を済ませ、下駄箱で靴を履き替えながら四月一日は大きく深呼吸をした。百目鬼のおかげで随分と気分は良くなってきているようである。
「…四月一日、送っていくか?」
「は?」
 後ろから聞こえた声に四月一日は驚愕する。
「いや…別に…大丈夫だけど…?」
「送っていく」
 四月一日の迫力のない返答で百目鬼は送っていくことを決めたらしい。今度は尋ねることなく言い切った。
「じゃあ…頼むわ」
 素直に了承した四月一日に心配そうな視線を送り、百目鬼は先に校舎の外へと出た。冬の凍った空気が目に染みる。コートをはおい、靴を引っかけながら外へ出てきた四月一日はトコトコと百目鬼の横に並ぶとそっとその手を握る。
「四月一日?」
「…寒い」
 顔を真っ赤にして呟いた一言に、百目鬼はにやりと笑ってその手を握りかえす。恥ずかしかったのか四月一日はぷいとそっぽを向いたが握った手は離すことなく二人は歩き出した。

―了―


最後の方だけらぶらぶしてもらいました( ノ∀`*)
私はお題に沿った内容を書くより、お題で得たいんすぴれいしょんに基づいて書くタイプの人です。なので、内容がお題とかけ離れてないかーとか思っても気にしないでください…(それが言いたかったのか!)

投稿日:2010-01-02 更新日:

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