四月一日が見当たらなかった。もう昼休みが始まったというのに、いつもの階段にも教室にも四月一日の姿はなかった。
「あれ、百目鬼君どうしたの?」
教室のなかを覗き込んでいた俺に気付いた九軒が不思議そうに訪ねてきた。
「四月一日は…?」
「え? 四月一日君ならもうお弁当もって出て行ったよ?」
私は日直の用事があるから行けないんだけど、と九軒は付け加える。
「階段の所には行ってみた? 四月一日君待ってるかもよ」
今まさにその場所から四月一日を探しに来たのだとは言いにくくて、俺はとりあえず行ってみると答えた。
もしかすると俺が四月一日の教室に向かっている間に行き違ったのかもしれない。そう思いながら俺は来た道を引き返す。
「やっぱりいないな…」
階段を上り、屋上へのドアを確認して俺は溜息を付いた。一体、何処に行ったんだあの馬鹿。
ふとそこで、先刻ここへ来たときには無かった物を目にする。それは白い風呂敷に包まれた、四月一日が作ってくる弁当だった。なぜかドアの前にちょこんと放置されている。
「まさか…」
四月一日は、屋上へ出ているのだろうか。
今は梅雨だ。今日だって雨が降っている。しかし、弁当はここにあるのにその持ち主の姿はない。
弁当だけ置いて便所に行ったのかもしれないとも思ったが、一応確認するつもりで俺はゆっくりとドアを開ける。
「四月一日……」
開けた屋上には、手すりに寄りかかって空を見上げている四月一日がいた。生暖かい風が雨を運び、俺を濡らす。厚い雲しかないこの灰色の空に、一体何があるというのだ。
俺の存在に気付かず、四月一日はただただ空を見つめている。
「何やってんだ」
後ろから声をかけても、四月一日は空を見つめたままだ。俺の声に反応しない。俺はなんとなく怖くなって後ろから四月一日を抱きしめた。四月一日が、雨に溶けて消えてしまいそうだった。
「……百目鬼?」
そこで漸く俺に気が付いたらしい。不思議そうに俺を見上げてくる。頬に触れた四月一日の髪がすっかり濡れてしまっていたので俺は眉を顰めた。
「何やってんだ、阿呆」
「ん…」
睨み付けてやると、顔をそらして目を伏せる。四月一日の長い睫には雨の雫が一粒。
「四月一日」
ぐいと肩を押し、こちらを向かせる。不思議そうに俺を見上げた四月一日のメガネをそっと上にずらして睫に口付けた。四月一日は特に抵抗することもなく瞳を閉じて俺のなすがままにされている。
メガネを戻し、唇に軽くキスをして俺は四月一日を抱きしめた。
「風邪引くぞ」
「ん、悪ぃ」
校舎の中へと促すと四月一日は素直に歩き出す。
一体何があったのかは分からないが、四月一日が妙に感傷的になっているのだけは確かだった。
何があったのか、どうして感傷的になっているのか、理由を問いつめてやりたい気分になったが出来なかった。こいつは、そこまで弱くない。俺が下手に口を出せば、きっと状況は悪化する。
そういえば、部室にタオルと予備の制服があったはずだ。このまま四月一日を濡れたままにさせておくのは良くない。
それを取りに行こうと立ち上がると、制服の裾を掴まれる。
「…どうした?」
「何処行くんだよ」
「タオル、取りに行く。濡れたままだと風邪引くだろ」
ぎゅっと制服を掴む手に力が込められたのが伝わった。
「そんなに濡れてねえから。大丈夫だから」
だから行かないでくれとでも言っているかのように制服を引っ張られる。
「…わかった」
そういって再び腰を下ろす。
俺にはいつものように弁当を食べることしか出来なかった。
いつものように弁当を食べることしか許されなかった。
―了―
百目鬼視点って、やっぱりなんか難しいですね(´ェ`)
ていうか雨に濡れた四月一日ってきっと超せくすぃーで目に毒な予感がします。梅雨だから夏服なのです。夏服と言うことは肌が透けるのです。ホラせくすぃー!!!(阿呆)それを超えるくらい百目鬼もせくすぃーだとイイです。はぁはぁ。階段で二人、静かに飯を喰らう水も滴るいい男一人と可愛い男一人(ぇ)