今のこの距離を縮めたら、おまえはどんな顔をするのだろう。
校門の前で四月一日を待つ九軒と鉢合わせ、一緒に帰ろうと誘われたのでそのまま俺も四月一日を待つことにした。
数分もしないうちに現れた四月一日は、満面の笑みを浮かべてこちらへ、正確には九軒の元へと走り寄ってくる。と、途中で俺の存在に気付いたのか、四月一日はあからさまに表情を変えた。
「なんでおまえがいるんだよっ!!」
不機嫌な様子を隠そうともせずに、俺に食って掛かる。
「悪いのか?」
「悪いに決まってんだろ! せっかくひまわりちゃんと二人っきりだと思ったのに!」
その九軒が俺を誘ったんだぞ、そう思いつつ俺は溜め息をついた。一歩離れたところで九軒はくすくすと笑っている。溜め息をついた事で四月一日はまた気分を害したのか何か叫んでいたが、いつものように耳を塞いで受け流した。
「あーあーなんで百目鬼なんかも一緒に…」
学校を出た後も、やはり俺がいるのが気にくわないらしく一人ブツブツと独り言を繰り返す四月一日。そこに九軒が話しかけるとぱあっと表情を明るくさせる。どうして此奴はこんなにも表情豊かなのだろうか。
「……やっぱり阿呆なだけか」
思わず口に出すと、しっかりと聞き取っていた四月一日が大声を出す。そんな様子を九軒に「仲良しだね」なんて言われれば困った顔と声で必死に否定する。あぁ、どうして此奴はこんなに表情豊かで可愛いのだろう。
途中の分かれ道で九軒と別れ二人きりになると、ぱたりと会話が途切れて静かになった。
「…今日もバイトか?」
ふと、声をかける。
「あぁ、これからそうだよ」
すると、ひどくぶっきらぼうな声が帰ってきた。
「なら侑子さん家の前まで一緒に行ってやる」
「はぁ!? なんでだよ!」
四月一日にとっては予想外の言葉だったらしく、不振な表情で俺を見た。
「最近また見るんだろ、アヤカシ」
さらりと言ってやるとうっと四月一日は言葉を詰まらせた。最近また見るようになった、とぼやいていたことを此奴は覚えているのだろうか。
「見るけど大丈夫だっつの。百目鬼なんかに頼らなくたって俺はなっ…!」
ムッとしている四月一日を、周りに人がいないことを確認してからぎゅっと抱きしめてみた。あまりの不意打ちに俺の腕の中で四月一日はぽかんとマヌケな表情になる。そのまま、そのぽかんとした口をキスで塞いでやった。
嫌がって暴れる四月一日を押さえ込むように深く口付ける。次第に抵抗する気力が失せたのか四月一日の手が俺のシャツをぎゅっと握る感触が伝わってきた。
さて、このキスを終えたら此奴はどんな表情<かお>をするのだろう――
俺は様々なパターンを予想しながら四月一日を解放した。十中八九、彼は俺を怒鳴りつける。そう思っていた。
しかし意外な事に四月一日は頬を真っ赤に染めて俺を見つめ続け、しばらくしてからハッとしたように視線を反らし俯いた。
あぁ、こいつはこんな顔もするのか。
ますます欲しいと思う自分の気持ちをどこまで抑えられるか、正直自信がなかった。
―了―
なんというか、実は両思いでしたー☆ のような感じ