『この世に偶然はない すべては必然だから』
本当に、すべて必然だというのならば。
おれがあいつにこんな感情を抱くことも必然だったというのだろうか。
いつもの昼休み。相変わらず百目鬼は四月一日と一緒に彼のお手製弁当をつついていた。今日は九軒ひまわりが日直で二人きりである。
最近の四月一日は二人きりになっても特に騒ぎ立てなくなった。二人でいることが多くなりすぎて慣れてしまったのだろうか。物言いに反応して怒る事は相変わらずだが、それでもやはり以前と比べると大人しい。その事を残念だと思い始めた自分自身に百目鬼は少々呆れていた。
「おい」
「おい、じゃねえよ! 全くおまえは何回言えば分かるんだ」
むっとした表情で四月一日は百目鬼を見た。何故か真剣な表情でこちらを見つめる百目鬼に四月一日は言葉を詰まらせる。
「な…なんだよっ」
じっとただ見つめられて四月一日は居心地が悪そうな表情になる。
「なんか言いたいことがあるなら言えよなッ!」
ったく訳分かんねぇと呟きながら四月一日は正面に向き直り、再び弁当のおかずに手を伸ばす。
「おまえが好きだ」
「…………は?」
聞こえてきた言葉にぎょっとして四月一日は振り返る。驚愕のあまり皿へ運ぶ途中だったおかずの卵焼きはぽとりと床に落ちた。
「言いたいことは言ったぞ」
ここぞとばかりににやりと口の端を少し釣り上げて百目鬼は笑った。
「なっ…ななな、何気色悪い事言ってンだよこの阿呆ッ!!」
顔を真っ赤にした四月一日は思わず二人の間に置いてあった重箱をばっと奪い取った。
「もうおまえになんか弁当はやらねえ!」
顔を赤くしたまま四月一日はのたまう。一体いつからこの反応を可愛いと思うようになったのだろう、と百目鬼は思った。これもあの人のいう必然なのだろうか。
(…やっぱりこっちの方が四月一日らしいな)
ぷりぷりと怒る反応を楽しみながら百目鬼は重箱を奪い返して中のいなり寿司をぱくりと口にした。
「コラ! 食うなっての!!」
奪い返された重箱を取り戻そうとする四月一日を制しながら百目鬼は次々とおかずを平らげていく。
「御馳走様」
ほとんど空になってしまった重箱を床に置いて百目鬼は立ち上がった。
「あーッ!!! おまっ俺の分まで食うなよ!!!!!」
殆ど食べてなかったのにー! と、涙目になる四月一日に百目鬼は用意していた言葉を返した。
「美味かったからな。つい、食べ過ぎた」
百目鬼が味の是非についてコメントしたのは初めてだったので、四月一日はぽかんと口を開けて固まってしまった。
「御馳走様」
もう一度言うと百目鬼はぽふと四月一日の頭を軽く叩いてその場を後にした。一方、残された四月一日はこれでもかという程顔を真っ赤に染めてうずくまっていた。
この世で起こる事全てが必然なのならば、悔しいけれどこの感情も必然の結果なのだろう。
四月一日を、百目鬼を、好きだというこの感情。
互いに認めたくない感情をもて余しながら、今日も時間が過ぎていくのであった。
―了―
私一体何が書きたかったんだろうー…