xxxHOLiC

聞きたくなかった

 こんな事、一体何の意味があるのだろう。
 百目鬼に押し倒されているという状況で、意外にも冷え切った気分で四月一日は小さく息を吐いた。

聞きたくなかった


「四月一日」
「…ん?」
 四月一日の服を脱がしかけていた百目鬼は、しっかりと彼からひっそりはき出された溜め息を聞きとったのかその手を止める。その表情はどこか不機嫌だ。
「んだよ」
 特に何かをするわけでもなく、何か言うわけでもなく、ただ眉根にしわを寄せて、百目鬼は四月一日をじっと見つめていた。その意図がわからず四月一日もまたむっとした表情になる。
「シねえんならそこどけよ」
「いや、する」
 四月一日の一言に即答してその白い肌に食らいつくと、んっとくぐもった声が漏れる。首筋にキスをしながらゆっくりと肉付きの薄い胸に手を這わせる。過去の幾度の情事で既に開拓された四月一日の性感帯を確実に百目鬼は攻め立ててゆく。
「はぁっ……ぁ…ど…めきっ…」
 熱に浮かされて思わず百目鬼に手を伸ばすとぎゅっと強く抱きしめ返された。ぎゅうぎゅうとその腕に力が込められて呼吸が苦しくなる。
「ン……苦しっ…どーめき、ちょっとは、加減しろっての。おれ窒息しちまうっ」
 引き続き強く抱きしめてくる百目鬼の体を四月一日はやんわりと押し返す。しかし腕の力は弱まることはなく増す一方で。
「ど…う、めきっ…ンと…いい加減にっ…」
「……君尋」
「ッ!!」
 突然紡がれた自分の名に四月一日は先程のような柔らかな拒否ではなく力の限り百目鬼を突き飛ばした。しかし百目鬼は再び四月一日を腕の中に納めて口づける。口付けて、胸の飾りにキスをして、内腿を撫でる。
「キミヒロ…」
「ッ…!」
 百目鬼が耳元で静かに囁くと四月一日はビクリと体を強張らせる。
「キミヒロ」
「やっ…めろ!」
 ぎゅっと目を瞑って、四月一日は百目鬼の胸を押し返す。それに構わず百目鬼は四月一日の肌を犯しながら名前を呼んだ。
「キミヒロ」
「やめっ…名前なんかで、呼ぶな…ぁッ…」
 ぽろりと四月一日の目から雫が落ちる。その涙を百目鬼は愛おしそうに唇でぬぐう。
「君尋、愛してる」
「ッ…! やめろ…ンな事…言うなっ!」
 耐えられない、といった風に目を閉じた四月一日は顔を背けて必死に百目鬼の体を押しのけようとしていた。
「愛してる」
「やだ…やめろ…やめて、くれッ…」
 この行為に愛なんてないはずなんだ。だから、やめてくれ。そんな熱っぽい声で愛を囁いたりしないでくれ。
 ぽろぽろと涙を零して泣き始めた四月一日に百目鬼は優しく口づける。
「おまえがどう思っていても、俺は君尋を愛してる」
「…ッ……いや…だ…」
 囁かれる言葉が胸に突き刺さる。どうしてそう心を見透かしたような発言をするんだろうかと四月一日は観念して百目鬼の背に腕を回す。すると先程のように強く四月一日の体を抱きしめ返してきた。
「…君尋」
「だから…名前は…やめろって…」
「何度でも呼んでやる」
「やだって…」
「キミヒロ」
 まるでぐずる子供をあやすような優しい声に四月一日は耳を塞ぎたかった。百目鬼が自分に対して特別な感情を抱いていて、だからこんな風に肌を合わせることを要求してきたのは何となく知っていた。けれど、気付かないようにしていたのだ。
「百目鬼…ヤだよ…」
「何がだ」
「俺も……俺もおまえのこと、好きになっちまう…やだよ…」
 本気で好きになってしまったら、離れられなくなる。失う時の重みが大きくなる。
「好きになればいいだろ」
 百目鬼はまぶたに口付けながら囁くが、四月一日は頭を振る。
「俺は、お前より先に逝ったりしねえから」
「…!」
「だから好きになっても大丈夫だ」
「……どぅ…めき…ッ」
 優しいけれど力強い声音の言葉に四月一日は思わず目の前の体にすがりついた。抱きついてキスを求める。百目鬼は少し驚いた様子だったがすぐにそれに応えた。
 熱く、深いキスをしてそのまま行為になだれ込む。とても大事そうに、優しく優しく触れてくる百目鬼の手が今の四月一日にはもどかしくて仕方がなかった。

―了―


「君尋」、「名前で呼ぶな」な流れが書きたかったのです(*ノノ)
しかし、なんだか妙にエロ小説が書きたくなってまいりましたよ、と…(ぉ
四月一日だったらちゃんと男の子させられそうな自信が…!(どんなだ)どーしても受けの方が女の子口調になっちゃうんですよねー(・ω・`)とかいっていざ書いてみたら女の子四月一日が完成しそうな希ガスorz

投稿日:2010-01-02 更新日:

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