xxxHOLiC

気付いてしまったから

 なんでだろう、なんでだろう。
 そんな単語が最近の俺の頭の中をぐるぐると支配していて。
 そういえば「なんでだろ~♪」なんて歌ってたお笑い芸人がいたな、なんて思いながら俺は放課後の教室から離れになっている弓道場をぼんやりとながめていた。

 しばらくして、チャイムが鳴る。時計の時間を確認してから決心の付いた俺は気合いを入れて勢いよく立ち上がった。

気付いてしまったから


「おい、百目鬼」
「あ?」
 部活が終わって弓道場から胴着のまま外へ出てきた百目鬼は待ち伏せていた俺の姿に多少なりとも驚いたようで。物陰からいきなり声をかけた俺を不審そうに振り返った。
「ちょっと、来い」
 むんずとその腕を掴んで有無を言わせずに百目鬼をひっぱり出した。百目鬼はやはり不思議そうな様子だったものも大人しく俺についてきていた。
 そうして俺は百目鬼の腕を掴んだまま、百目鬼を弓道場と校舎の間に連れ込んだ。
「一体なんだ?」
 腕を組み、弓道場によりかかるようにした百目鬼は眉間にしわを寄せてこちらを見ている。
「百目鬼」
「だからなんだ」
 声をかけると間髪入れずに言葉が返ってくる。俺は思わずうっと言葉に詰まってしまったが意を決して息を吸った。
「おれ、百目鬼が…好きだ」
 最後まで目を見て言い切るつもりだったのに、やっぱり恥ずかしくなってしまって最後の肝心な部分は目を反らしてしまった。ちらりと百目鬼に視線を戻すと、奴は眉一つ動かさずに先程と同じ顔のままだ。少しくらい驚いたっていいんじゃないのか? この鉄面皮。
「お前が好きなのは九軒だろ」
 ふぅ、と溜息をつきながら百目鬼は言った。
「違う。たしかにひまわりちゃんは好きだけど」
 でも。
 気付いてしまったんだ。
「ひまわりちゃんを好きな気持ちは、お前のことを好きな気持ちとは違う」
 今度はしっかりと目を見て告げる。
 あぁ、なんでこんな事になったんだろう。自分でも不思議だよ。俺はひまわりちゃんが好きだったはずなのに。
「ひまわりちゃんへの気持ちは…そうだな。テレビの向こうのアイドルを好きなる気持ちに似てる気がする」
 ひまわりちゃんの事は好きだ。一緒にいられると嬉しいし、顔だって熱くなる。ひまわりちゃんが自分のことを好きになってくれたら、きっとそれだって凄く嬉しいはずだ。
 けれど。
「おれ、百目鬼が欲しい」
 今度は百目鬼の眉がピクリと小さく動いた。
「お前をおれのものにしたい。おれだけのものにしたいんだ」
 いつのまにか、どこからかやってきた独占欲。
 百目鬼が、いつも当たり前のように俺の横にいるから。此奴が俺以外の誰かの横にいるなんて許せなくなっていたんだ。
 恥ずかしい事を言っているって事は分かっていたけれど、言わずにはいられなかった。

 ひまわりちゃんは男女問わずに人気がある。だから彼女の横に立つのが俺じゃなくてもしかたがないと思った。
 けれど、百目鬼だって人気がある。それこそ男女問わず、特に女の子には。今はいなくても、いつか百目鬼の横に“彼女”という女の子が立つのかと思うと辛くて仕方がなかった。
 この前、あの双子のお姉さんが百目鬼に告白した時に気付いてしまったんだ。この気持ちに。

 長い沈黙が続いた。
 告白した後の事なんて何も考えていなかったから俺は困って黙るしかなかった。
 一体俺は、百目鬼になんて応えて欲しかったのだろう。
「………呼び止めて、悪かったな」
 まぁ、俺もあの双子のように“玉砕”って所なんだろな。
「じゃあおれ、そろそろユーコさん所行かねえと…」
 今から行ったってどうせ遅刻なんだけど。でもこの場から立ち去るには侑子さんの名前を出すしかないと思った。
「それじゃあな」
 百目鬼が好きになる奴って、どんな奴なんだろうな。
 ふと思い浮かんだ疑問に少し泣けてくる。

 目に滲んだ涙を見られたくなくて慌てて踵を返すと引き留めるように後ろから抱きすくめられた。
「ど…どうめ…き?」
 予想外の出来事に俺は驚いてうわずった声を出してしまった。振られたと、そう思っていたから余計に。
 百目鬼は俺を抱く手に力を込める。
「手にはいるなんて、思わなかった…」
 熱っぽい声で耳元に囁かれ、一気に顔が赤くなるのが自分でも良く分かった。
「おれも、お前が欲しい」
「……百目鬼…」
「好きだ、四月一日」
 告げられた言葉に体が震えた。
 百目鬼に後ろから抱きしめられているという状況が気にくわなくて、俺は百目鬼の腕をふりほどいて向かい合った。
 しばらく無言で見つめ合って俺は百目鬼の体を抱きしめる。百目鬼もまた俺の体を抱きしめ返してきた。
「おれ、お前に振られたと思ったんだからな」
「なんでだ?」
 ぼそりと呟いた独り言をしっかりと聞き取っていた百目鬼が問いかけてくる。
「だってお前、ずっと黙ってたじゃん」
 すっげー怖かったんだぞ、あの沈黙。そう言うと百目鬼がクスリと笑った…気がした。
「おれだって動揺くらいするからな」
 動揺…? してたっていうのか? こいつが? あの無表情で?
「…そっか」
 それを考えるとなんだかおかしくて、もうそんなことはどうでもいい気がしてきた。
 ぎゅっと百目鬼の体を抱きしめてその胸に顔を埋める。部活上がりの百目鬼の胴着は汗の臭いが染みついていたけれど、その臭いさえも心地よいと思えるほど俺は幸せな気分に浸っていた。

―了―


私はどちらかというと百←四より百→四派ですが、四月一日からの告白というのも良いモノです(´ェ`*)

投稿日:2010-01-02 更新日:

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