百目鬼と、睨み合いながらキスをするのはもはや意地の張り合いだ。
どのくらい前の話になるのだろうか。そう遠い昔ではない。
百目鬼といわゆる“恋仲”になって初めてキスをしたとき、「キスの時くらい目閉じろ」と言われてから意地になってしまっている。どうやらそれは百目鬼も同じらしい。キスの最中は、絶対に目を閉じたりしない。
意地になっている姿が可愛い。
初めてキスをしたとき、よほど吃驚したのか目を見開いて俺の方を見たままだったから。からかってやろうと発した一言にいつまでも意地になって反抗している。
キスの最中に睨み付けてくるその姿が可愛くて仕方が無くて、俺も目を閉じずにそんな四月一日を楽しんでいる。
けれど、そろそろそれも飽きてきた。
「おい」
「だから、俺はおいじゃ…」
ぐりんっと、首が痛くなるんじゃないかと心配するような勢いで振り返った四月一日に百目鬼は静かにしろと言うかのように口付けた。
案の定、吃驚したように目を見開いた四月一日は、むっとした表情のままでそれでも大人しくしている。四月一日も表情は不満げだがキスそのものは嫌いではないらしい。
四月一日が息継ぎをしようと口を開いた隙に舌を絡ませると、四月一日は一瞬目を細める。けれどまたすぐに目を見開いて口付けはそのままに目の前の百目鬼を睨み付ける。
器用だな、と百目鬼は思っていた。四月一日が何度も目を閉じそうになっては開くを繰り返している様は可愛いとしか言いようがなかった。
「……意地っ張りだな」
唇を離して、第一声。
「だれが」
「おまえが」
濡れた唇を照れながら乱暴に腕で拭う様がいつも色っぽくて、可愛い。そう百目鬼は思いながら微かに笑う。
「まぁ、俺も意地っ張りには違いないけどな」
ぽつりと呟いた百目鬼は再び四月一日に口付けた。
今度は、しっかりと瞳を閉じて。
百目鬼が瞳を閉じたことに驚いて、四月一日は目を瞬かせた。
今まで何度もキスをしてきて、一度も、一度も目を閉じたことなんかなかったのに。
そうしたらなんだか急に気恥ずかしくなった四月一日はつられたように瞳を閉じた。
(あ…やばい、どうしよう…)
四月一日は目を閉じたことに後悔していた。
目を閉じるタイミングを見計らっていたかのように百目鬼が舌を絡ませてきた。思えば、いつも目を閉じないことに意識を集中させていて、キスそのものは二の次だった。だから、視界が閉してしまうと否が応でもキスの感触に意識が向かってしまう。
(コイツ…こんなにキス、上手かったのかよ)
それは四月一日にとってはとても悔しい感想だったけれど、どうしようもない。初めてディープキスをしたときもそう思ったけれども、それ以上だった。何故なら足にもう力が入らない。
いつのまにか抱き寄せられていた百目鬼に、すっかり体重を支えて貰っている。
「…っ……ふ…ぁ……」
唇が離れて、自然と瞼も離れて、間近で見つめ合う。とろん、と熱に浮かされたような四月一日の眼差しに、百目鬼はおもわず生唾を飲み込んだ。
「……俺の勝ちだな」
「…………なんで」
勝ち誇った笑みをみせる百目鬼を四月一日は睨み付ける。と、いってもその視線に威圧感はまったくない。
「誰がどう見たって、おれの勝ちだろ」
「……誰も見てないだろ」
「あたりまえだ。こんな四月一日、誰にも見せたくねえ」
そんな殺し文句を言われたあげく、ぎゅっと抱きしめられてしまっては
「うるせー。百目鬼の阿呆ッ」
そんな憎まれ口を叩くことしか四月一日にはできなかった。
―了―
気付いた方もおられるでしょうか。結構前に自分で書いたイラストの続きような小説を書いてみました(・∀・)
数時間であくせくと書き上げたので後で見直すとボロがでそうだなぁ…。コソコソ内容や言い回しが変わっていたらにやりと笑ってください(まて)