xxxHOLiC

人の気も知らないで。

 足に絡み付いていた紫陽花を取ろうとしていた四月一日が、突然消えた。
 初めは何が起こったのかわからなかった。

人の気も知らないで。


「四月一日ッ!!」
 爺さんが大事にしていた傘が宙を舞い、がしゃと音を立てて地面に転がった。
 傘を思わず投げ捨て、四月一日が消えた場所へと駆け寄る。
「一体…何が…」
 そこには人がいた気配さえしなかった。真っ赤な紫陽花が雨に濡れて泣いているようだった。

 また、アヤカシなのだろうか。
 俺には何も出来ないのだろうか。
 守ってやると、決めたのに。

 いてもたってもいられなくなった俺は四月一日がいなくなった場所の地面を掘り出した。もしかしたら地中に引きずり込まれたのかもしれない。たとえそれが全く意味を成さない行為だったとしても、何かせずにはいられなかった。

「…やっぱり、こうなってたわね」
 俺が地面を掘り出して一時間くらいだった頃だろうか。背後からあの女店主の声がした。
「百目鬼君、どんなに掘ったって四月一日はでて来ないわよ」
 心の内を読まれているのだろうか。そう思いながら背後を見上げる。
「なら、俺はどうすればいいですか?」
 この人が四月一日に俺を連れて行くようにと言ったのなら、俺でなければ出来ないことがあるはずなんだ。
 けれど、俺にはそれが分からない。何をすればいいのか見当も付かない。
「ひまわりちゃんのリボン、あったでしょ。それを持ってなさい」
 俺は懐にしまっていた九軒のリボンを取り出す。
「四月一日が、もう一つのリボンを持ってるなら、それに気付くかもしれない」
 思わずじっとリボンを見つめた。このリボンに、一体どんな力があるというのだ。
「それまで、ずっとここで待ってられる?」
「はい。ありがとうございます」
「あら、ちゃんと対価は貰うわよ?」
 侑子さんの一言に、俺は思わず苦笑した。

 それからどのくらい時間が経ったのだろう。
 何もなかった地面に突然現れた四月一日は、優しい顔をして紫陽花の根本に何か話しかけている。とりあえず、特に怪我などはしていないらしい。俺が持っていたリボンは、四月一日の右手に引っかかっていた。
 ほっと安心したけれども、四月一日がこちらに気付かない事が少し悔しくてリボンをぐいっと引っ張ってやる。
「百目鬼…!」
 俺の存在に気付いたら、辺りが真っ暗になっている事にも気付いたらしい。不思議そうに四月一日はきょろきょろと辺りを見回す。
「もういい、疲れた…」
 本当に無事に帰ってきたことに安堵して、俺はしゃがみこんだ。何が疲れただ! と叫ぶ四月一日の声が少し心地よかった。

―了―


雨童子の頼み事の時の百目鬼の行動は、ホント萌えますよね。と、いうことで妄想を形にしてみました。百目鬼が偽物になった臭いがプンプンしますね( ノ∀`)

投稿日:2010-01-02 更新日:

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