スターオーシャン

ふたりの貴方

「貴方が…本物だろ?」

 

クロードはディアスににこっと微笑みかけた。
「クロード…」

心とは正反対の、偽りの微笑みを…

 

 

クロードの声が、微かに震えていたようにディアスには思えた。
自分にむけられている微笑みも、作り物に思えた。
ディアスはクロードから、目を背けることしかできなかった…

その微笑みがあまりにも健気で…

 

「クロー
「何も言わなくていいよ。ごめん。迷惑かけた」

『クロード!どうしてだ!そいつはっ!!』
向こうで悪魔が血相を変えている。
クロードは俯く。
しばらくしてゆっくり悪魔と向き合った。
曇りのない蒼い瞳が偽物のディアスを見つめる。
一瞬たじろいた悪魔にてくてくと歩み寄ったクロードはその腰に抱きついた。

「クロード?」
突然のクロードの行動に、二人とも驚きを隠せない。
クロードは服をぎゅっと握りしめて呟いた。

「迷惑かけて…、ごめんね。今まで、本当に…有り難う……。
ホントは、薄々感づいてた。でも…」

事実と向き合う自身がなかった。
願わくば、今自分を愛しているディアスが偽物でないことを……

 

いつも心のどこかにあった不安。
不安が現実に。

 

 

「ねぇ。君さ、本当の名前は、なんて言うの?本当は…どんな姿なの?知りたいな…」

俯いたクロードは目の前にある胸に顔を押しつける。

『ヴェド。ネーデの古い言葉で…悪魔って意味…』

ゆっくりとクロードの体を引き離したヴェドの体は少しずつ変化していった。
青かった髪の毛は艶のある黒髪へ変化していて、長さは肩に掛かる程度まで短くなった。
肌も少し黒くなり、口の端からは悪魔と呼ぶに相応しい牙が見える。
黒い羽が美しい。

クロードはヴェドの変化の様子をただジッと見つめていた。

『クロード…』
「……格好いいね」
『…ありがとう…』

クロードは再びヴェドに抱きつく。
ヴェドはクロードを抱きしめ返し、囁いた。
『クロード、僕と一緒に来てくれないか?』
「?」
『僕は…本当に、君のことを愛してる。君と…ずっと一緒にいたいんだ…』

クロードは驚いたように瞳を大きく開き、ヴェドの顔を見つめた。
しばらくして、こくり、と小さく頷いた。

「クロードっ!?」
「でもね。ヴェド…。少しだけ、待ってくれないか?」
驚きの声をあげたディアスにも聞こえるような声で、クロードは言う。
「僕は…十賢者を倒さないといけない。
僕がこんな所で居なくなるわけにはいかないんだ。だから……
だから、待ってて。
僕は逃げない。必ずヴェドと一緒にいるよ」
『わかった』

 

『必ず、迎えに行くから…』

 

そう言い残し、ヴェドの体は闇の中へゆっくりと消えていった。

クロードとディアスの意識も闇の中へと飲み込まれた……。


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投稿日:2010-01-01 更新日:

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