時は流れ、十賢者を倒した一行はエクスペルへと帰ってきた。
みんな、それぞれ昔の生活へと戻り、ノエルとチサトは新しい生き方を見つけた。
そして―――
此処はエル大陸にあるひっそりとした森林。
その中に一人クロードは足を踏み進めていった。
「此処なら…誰にも邪魔されないよな」
ヴェドとの約束を果たすために何とかして引き止めようとするディアスを振り切って此処まで来た。
此処なら、ディアスが現れて戸惑うこともなくなるだろう。
何も後悔することもなく、自分を愛してくれるヒトの所へいける。
「ヴェド……もう…僕を迎えに来ても良いよ」
ぽつりとクロードは俯きながら呟く。
すると辺りの木々達がさわさわと騒ぎ始め、クロードが顔を上げると懐かしいヴェドの姿があった。
「ヴェド…」
『クロード…もぅ…準備は良いのかい?』
「うん。…でも…僕は何をすればいいの?」
ヴェドと一緒に行くとは言ったが、彼は悪魔で自分とは違う世界の人間だ。
彼の世界に行くと言うことが、いまいちよく理解できない。
そんなクロードの気持ちを察したのかヴェドが口を開いた。
『大丈夫だよ。何もしなくていい。僕らの世界は魂だけの存在なんだ。
魂が実体を持って生活しているんだ。
だから、魂を入れる器…つまり躰は必要ない。
クロードの魂を僕が連れて行くからね。…心配しなくて良いよ。痛くないし、辛くもないから』
「…わかった。行こう、ヴェド」
説明を聞いて安心したのかクロードは優しい微笑みをヴェドにむける。
ヴェドも微笑み返してクロードの額に手をあてた。
「待てっ!!!!」
『なっ…』
「え…?」
ヴェドは視線をまっすぐ声の主に向ける。
クロードは…おそるおそる後ろを振り返った…
木を掻き分けてそこにいた人物は急いで走ってきたのか小枝でマントはボロボロになっていた。
綺麗な長髪も息も乱れている。
「クロード……行くな……」
「…ディアス…どうして此処に…」
額にうっすら汗を浮かべ、荒い息を整えながらディアスはクロードの側へと歩み寄った。
「行かないでくれ…クロード…」
ディアスはクロードを自分の胸に抱き込んで耳元で囁いた。
「俺には…お前が必要なんだ…。お前と二度と会えなくなると意識して…初めて分かったんだ」
「……でも…」
クロードはディアスの言葉に戸惑う。
そんなクロードを強く抱きしめてディアスは続ける。
…ヴェドは…その様子を静かに見ていた。
「クロードの思っている通り、あの夜の俺は…衝動的にお前を抱いたのかもしれない。
あの後ゆっくり考えて改めて俺はクロードを愛していると実感した」
「…嘘だ…」
「俺の側にいてくれなくても良い。
…俺がお前の姿を見たいと思った時、声を聞きたいと思ったとき…そうできる場所にいて欲しいんだ…。
俺はお前に会わなければ変わることは出来なかっただろう。
お前を失ったら…また自分を見失いそうなんだ…」
「ディアス…」
ディアスらしくない言葉にクロードの瞳が揺れる。
「そんなこと…言わないでよ…。
そんなこと言われたら…僕はどうすれば良いんだよ…。わかんないよぉっ…」
クロードは半分泣きながら声を絞り出す。
「うっ……うぅ…ヴェドも好きだけど……ディアスだって…やっぱり好きなんだモン…
そんなことっ…言われたら…うっ…うぅ…」
ずっとディアスに憧れていて、好きだった。その想いは簡単に消えるものではない。
でも、自分を本気で好きだと言ってくれるヒトにも惹かれている。
どうすればいいのか…わからない…
『クロードは…どうしたい?』
ずっと口を噤んでディアスとクロードのやり取りを見ていたヴェドが口を開いた。
そしてディアスに目配せをする。
『お互いクロードの判断に任せよう』
そう言っているようだった。
ディアスはその瞳に写った切なげな物を感じ取ったのか、静かに頷いてクロードから離れた。
『分からなく無いよね、クロード。
君はもう自分がどうしたいか分かっているはずだよ』
「……うん……」