「僕は…」
俯いたクロードが静かに声を吐き出す。
自らの気持ちを表すために。
「僕は…ディアスと一緒に生きたい…」
俯いたクロードのつぶやきは、風に溶けて消えてしまいそうなほど微かなものだった。
クロードは何だか怖くて顔を上げることが出来なかった。
一緒に行くって、約束したのに…
それでも…僕は…
「ごめん…なさい」
俯いたままクロードはヴェドにむけて謝罪の言葉を口にした。
『…あやまらなくていいんだよ、クロード』
優しい声音がクロードの耳を擽り、思わず顔を上げる。
そこには声と同じように優しい笑みを浮かべたヴェドがいた。
「ヴェド…」
ヴェドはクロードの体を優しく抱きしめ、ぐずる子供をあやすようにクロードの頭を撫でた。
クロードはヴェドの腕の中で表情を固める。
優しく髪を梳かれる感触に、罪悪感で心がいっぱいになった。
「ごめんなさい…」
謝らずにはいられない。
約束を破ることはいけないことだ、そう小さい頃何度も言い聞かせられていた。
ヴェドは微笑んだままでクロードの頭をなで続けていた。
ディアスは複雑そうな顔で二人を見つめている。
『じゃあクロード、僕は帰るよ』
「ヴェド…」
しばらくそうしていて、どのくらい時間が流れたのだろう。
ヴェドはようやくクロードの体を離して微笑んだ。
「ごめんね…」
『気にしなくてもいいよ』
「…うん…」
俯くクロードの肩にディアスがそっと自分の手を乗せる。
「……ディアス…」
ディアスの顔を見上げ、クロードは小さく微笑んだ。
その様子を見ていたヴェドも優しい笑みを見せている。
『そうだ。これ、あげるよ』
「え?」
ヴェドの突然の言葉にクロードはきょとんとする。
『手、出して』
言われたままに右手を差し出すと、ヴェドはその手の上に自分の手を重ねた。
不思議そうに首をかしげるクロードにはかまわず何か呪文のようなモノを小さく唱えている。
『よし、いいよ』
ヴェドに言われてクロードはおそるおそる自分の手のひらに視線を移した。
そこには綺麗な虹色の石があった。
虹色、というよりそれは青い石だったけれども、角度を変えてみると七色に光る。
クロードはその石をつまんで太陽の光にかざし
美しく変わる不思議な光を真剣な表情で眺めていた。
「これを、僕に…?」
『うん。僕だと思って持っていてくれたら、うれしい』
「……ありがとう。大切にする」
ぎゅっとその石を握りしめ、微笑んだクロードにヴェドも笑った。
『元気で、生きてね、クロード』
「ヴェド…いっちゃったね……」
「あぁ」
先程までそのヒトがいた場所をクロードはじっと見つめている。
「ねぇ、ディアス」
「ん?」
「さっき言ってたこと、本当?」
クロードはディアスを見上げた。
ディアスは答える代わりにクロードに口づける。
「…もちろん、本当だ」
長い長い口づけの後にディアスはクロードの耳元で囁いた。
甘い声音にクロードは頬を染める。
ディアスの腕の中で半ば夢見心地なクロードは微笑んでいた。
「信じられないなぁ~」
「ん?」
「………僕がこんな風にディアスと一緒にいること」
クロードは顔を赤くしてディ会う巣の胸に頬を寄せる。
この男を好きだと意識し始めた頃には夢のまた夢の出来事だった。
「あ、でも信じられない、って思うのは2回目だね」
くすっと笑ったクロードにディアスは苦笑いをする。
「……貴重な体験だったな」
「だね」
苦笑しながら自分を抱きしめてくるディアスの背にクロードは抱きついて瞳を閉じた。
絶対に、忘れない
君がいたことを
君が僕を愛してくれたことを.
END