スターオーシャン

僕の幸せ

「クロード……」
「ん?……何…ディアス……??」

行為の最中に突然手の動きを止めたディアスに戸惑いを隠せないクロード。
そんなクロードをみてディアスはふっと微笑んだ。
「お前は…何だかんだ言っていても俺のことを愛してくれているんだな」
「…なっ!!ち…違うよ!!ディアスが……何度もこんなコトするからっ…!」
赤くなった顔を更に真っ赤にさせて、必死にクロードは否定する。ディアスは普段なら絶対にしない悪戯を考える子供のような笑みを浮かべてクロードのものに指を絡めた。
クロードの口から甘い吐息が漏れる。
「……ならば、自覚させてやろう」
そう言うと、ディアスはクロードの体から離れ乱れていた髪や服を直す。そうしてそのままマントを持ち、部屋を出ていってしまった。

「えっ…ちょっとディアス!!待って…待ってよ!!」
声をあげても部屋を出ていってしまったディアスには届かない。仕方なくクロードも服を直して眠りにつこうとした。
がしかし。つい先程までディアスによって高められていたものは眠ろうとしない。
何とか我慢して、さっさと寝てしまおうとしても眠ることが出来ない。
「あぅ……ディアス……ひどいよぉ…」
行き場を無くした熱がクロードを苦しめる。我慢できなくなったクロードは服を脱ぎ、自らのモノに手をかけた。
突然、ドアが開く。
「だ……れ…?」
誰が入ってきたのかも分からないのに、クロードは恥じる様子もなく吐息混じりに問いかける。
ディアスが来たものだと思っていたクロードは扉の所に立っていたボーマンの姿に目を見開いた。

「何……やってるんだ、クロード…。……ディアスはどうした?」
「ディ…アス……途中で…出てった……はぁ…っ」
ボーマンは複雑な表情でクロードのベッドへ歩み寄る。未だに一人で自分に愛撫を与えている手をはらい、クロードのものをゆっくりと撫でた。
「あふっ…!ボーマン…さん?…っ何し……て、あっ…」
「可哀相なクロード……。俺がイかせてやるからな」
「え……?うっ……あぁぁぁっっ!!」
「クロード……可愛いな、お前は…。……ディアスのものにしておきたくない……」
そう言うとボーマンはクロードの精で濡れた指を最奥の蕾に突き立てた。
「いやぁ、痛いぃ!!ボー…マンさんっ!…やめぇ……あぅ…」
クロードの中でボーマンの指が暴れる。クロードはボーマンから逃れようともがくが、もがけばもがくほど自分の内側での刺激が強まって、甘い声しかあがらない。

「ん……いやぁ…」
観念したクロードは近くにあったシーツを縋るように握りしめる。
ボーマンは指をもう一本増やしながらクロードに囁いた。
「クロード、シーツ頼ってもシーツは何もしてくれないぞ。縋るんだったら俺にすがれ」
「え…あぅ……はぃ……」
言われてたままに自分の秘部を犯しているボーマンにしがみつく。
肌の暖かさを感じてほんの少しだけ安心したようにクロードは肩の力を抜いた。
「不安だったら俺の名前を呼ぶんだ」
「あぁ……ボ…マン、さん…。ボーマンっ…さぁん……やっ…あ…」
「そうそう……。イイコだな、クロード…」

 

ディアスはクロードの部屋の前に来ていた。
そろそろ自分が恋しくなってきている頃だろうなどと考えて、そっとドアに耳をあててみる。
「あぁ……あっ…ボーマ…んさ……ひっ…」
(………今…何て…)
「ぼ…まん…さん……やぁっ…あん…あぁ…」
(ボー……マン?)
ボーマン?どういうことだ。と、扉を開けて少し中を覗くと、愛するクロードがボーマンに犯されているではないか。が、どうも無理矢理強姦されているようには見えない。
いつもクロードはディアスが何をしてもシーツを握りしめるばかりで自分には頼ってこなかった。
自分の名前を呼んでくれることも、本当にごくまれだった。
と…いうことは……
クロードが愛していたのは他の誰でもなく、ボーマン…。
(そういう…ことか……)
一人納得したディアスは酷く切ない表情でその場を立ち去った。

 

  ――――――――――

 

「ところで…クロード。ディアスはどうしてお前をほっとらかしにしたんだ?」
情事のあと、不思議に思っていた疑問をボーマンはクロードに投げ掛けた。
「僕が……ディアスのこと…愛してないって言ったから……。自覚させてやるって…ディアスが…」
泣きながら答えるクロードにボーマンは多少の罪悪感を感じながらクロードの頭を撫でた。
「自覚…できたか?」
「……うん……。さっき…何度もボーマンさんが…ディアスだったらって……思っちゃった……。ディアスと…さっきみたいに…抱き合いたいよぉ…」
泣きじゃくるクロード。
ボーマンは耳元でごめんなと囁き、そのまま眠ってしまった。
クロードもいつの間にかボーマンの腕の中で深い眠りに落ちていた……。

 

ディアス…愛してる…

 

その日はパーティの日曜日的感覚で、一日ファンシティで自由行動と言うことになっていた。十賢者と戦うとは家度、少しくらいの休憩は必要だとういうボーマンからの強い主張により、今ここにこうしている。
その日は朝からディアスはクロードと目を合わせようとしなかった。
いつもなら一緒に稽古をしようと言ってくれるのに、それさえもなくてクロードはだいぶ落ち込んでいるようだった。ディアスの姿を探してみてもどこにもいない。
とぼとぼとホテルに入りクロードはそのままぼーっと一日を過ごした。

いくら陽気なファンシティといえども夜は閉場しているので静かだ。ホテル以外に人は誰もいない。
昼間の賑やかさとは売って変わって、恐くなるほどの静寂…。
「ディアス…」
結局クロードは今日一日ディアスと話すことが出来なかった。凄く悲しくなってベッドの中に潜り込む。

カチャ…

鍵をかけていないドアが開く音。
ばっ!!とベッドから飛び起きるとそこには予想通りディアスが立っていた。
「ディアスッ!」
クロードはディアスに飛びつく。抱きついて、その大きな胸に甘える子猫のように頬をすりあてた。
しかしディアスは意外なことに自分の腰にまわしてあるクロードの腕を解き、身体をゆっくり突き放す。
「ディア…ス?」
「クロード…。俺は…もぅ、お前を抱かない…」
「え…?」
一瞬、何を言われたのか分からなくなってクロードは固まってしまう。が、すぐにディアスの告白の中身を理解して彼を呼び止めた。
「待てよディアス!!なんで!?僕…ディアスのこと愛してるよ?…なのに……どうして?」
だんだんと自分の声が涙声になっていくのがクロード自信にもよく分かった。
ディアスはみんなといるときと同じ様な冷たい表情でクロードを見下ろす。ディアスは溜息をつき部屋を出ようとした。
慌ててクロードはディアスの服をぐっと掴んだ。
「やだよディアス!!何でッ!?おねがいだよ…僕……やっと自分の気持ちに気付いたんだ…。もぅ、ディアスの以外の人に触られるのも、繋がるのも、絶対にイヤだ…。ディアスだけの者になりたいの…。ううん。物でもいいんだ。…愛してるんだ…お願い……」
クロードはしゃくり上げながら言葉を繋げ、ディアスを何とか呼び止めようとするがディアスは頭を振って部屋を後にした…。
クロードは床に座り込み泣き続ける。
ディアスの行動が…理解できなかった。

ディアスは僕のこと…愛していたんじゃなかったのか…?

 

それから幾日か過ぎた。
十賢者との戦いは日に日に激しさを増していく。
毎晩クロードがディアスの部屋に訪れても、いつも部屋には誰もいなかった。クロードが来るのを分かっていて…だからこそ居なくなっているような印象をクロードは持った。

そんなある夜。

用を足すために起きたクロードは自分が割り当てられた部屋に戻る途中、ディアスの部屋の前で立ち止まった。
今日は宿屋の部屋数の関係で男性陣四人だけが二人ずつの相部屋になっていた。
(…僕って…くじ運ないのかな?)
ディアスと同じ部屋になりたかったのに、見事にくじではずれてしまった。ディアスはアシュトンと。クロードは…ボーマンと。
(ディアス…もぅ寝てるだろうなぁ。寝るの好きだし………ん?)
耳を澄ますと部屋の中から何か声のようなものが聞こえて、悪いとは思いつつもクロードはそっと耳を扉にあてた。
「ちょ……ディアスッ…やめっんぅ…」
「…アシュトン…」

(……え……?)

驚いたクロードは何故か鍵がかかっていなかった扉をそっと開けた。
部屋の中では扉の向こうから聞こえた通りの行為が行われている。いつも…自分にむけられていた視線は今、別に人に注がれていた。

「だめっ…だって、ディアス……ディアスには、クロー、ド、が…ひっ」
「…クロードがどうした?俺にはあんな奴関係ない」

ガチャ…

思わず音を立ててしまった。幸い、ディアス達には気付かれていない。
クロードは全身の血がすべてぬけたような感覚に陥っていた。

あんな奴……関係ない

あんな…奴…

トゲを持った冷たい言葉がクロードの脳を駆け回る。その刺がいたるところに傷を付け、クロードをボロボロにしてしまいそうだった。
ふらふらと部屋に戻り、力無くベッドに横たわる。隣のベッドのボーマンはすっかり寝入っていた。
クロードの瞳からは蛇口を開けっぱなしにした水道から出る水のように涙が流れ落ちていた。クロードの眼は虚ろで魂が抜け落ちてしまったような顔になっている。そのままクロードは一睡もせず生気をなくした眼から機械のように涙を流し続けていた。

そっ……か。ディアスはいつも…アシュトンの所だったんだ…
僕なんかもうどうでもいいんだ…。
ディアスが愛してるのはアシュトンなんだ……
僕のことは……僕の…ことは……

 

 

 

 

―――― 長かった戦いは終わった。
古から続く戦いだったとも言えるかもしれない。
宇宙の崩壊はエナジーネーデの消滅により防ぐことが出来た。
宇宙を救った勇者達の行方は――――…

 

〓アーリア〓 神護の森

木漏れ日が心地よいのどかな森。クロードはその中に一人たたずんでいた。
クロードの視界には中くらいの石が二つと小さな石がひとつ……。その前には小さな黄色い花が添えられていた。
「ここで死んだら…ディアスは怒るかな…?」
大切な人の墓を…僕みたいな奴に汚されたら…。
クロードの右手には刃の長さが16㎝ほどのナイフ。
クロードは少し場所を移動して大きく息を吐く。そしてゆっくり自分の左手首にナイフを押しあてた―――

 

「さて…と…」
ディアスはアーリアにある我が家の掃除をしていた。レナの計らいで今まで村を出た当時のまま残して置いてくれた物だった。
一通り掃除を終えて、神護の森へと向かう。
…父さんに母さん、そして妹のセシルの墓にもう一度、きちんとした花を供えるために。
懐かしい道のりを歩き、神護の森へと足を進める。橋を渡り、森へ足を踏み入れる。
一、二歩進んだ所で人の気配を感じ、足を止めた。
(誰だ?……クロード??…地球に帰ったんじゃ…なかったのか?)
墓参りをしているにしてはどうも様子がおかしい。こんなに遠くからだと眼では確認できないが纏っているオーラが違う。
その時、クロードの右手に持たれている物が光を反射してキラリと光った。
(まさか……あれは…ちょっと、まて…)
「やめろクロード!!何莫迦なことをしているんだっ!!」
「ディア…す…?」
クロードはゆっくりとディアスの方を向き虚ろな目を少しだけ見開く。
ディアスは急いでクロードに駆け寄り、震える肩を強く抱きしめた。
「ディアス……何して…」
「それはこっちの台詞だ!お前こそ何をしようとしていた!?……変な気を起こすなっ…」
「ディアス…心配……してるの?……僕なんかのコト…」
「当たり前だ…」
クロードを抱きしめるディアスの腕に更に力がこもる。
クロードはにこっと微笑み、ディアスを突き飛ばして手に持っていたナイフで自らを刺した。
あまりの痛みに足に力がはいらなくなり、クロードはがくっと膝を折る。その腰をディアスが慌てて支えた。その腕に生暖かいものがつたう。
「クロード!!莫迦ッ!!何してるんだっ!!」
「……いいんだ、ディアス……」
「なっ………」
「ずっと前から…決めてた…。すべてが終わったら、この場所で…死のうって……。それに…ディアスの……腕の中で、死ねるなら…本望だよ。…えへへ…」
クロードは天使のような微笑をディアスにむける。突然咳き込んだクロードの口から赤い血が流れた。
「ね…ディアス……最後の…お願い………聞いてくれないか…?」
「…最後の願いなんぞきけん。…最後だなんて…」
「おねが…ディアス……キス…して。……キスして…ほしいんだ……」
クロードの瞳から大粒の涙が零れる。ディアスは悔しそうな顔をしてクロードの唇に自分のそれを重ねた。
血の味がする濃厚な口づけをかわす。
クロードはディアスの背中を愛おしそうに抱きしめていた。
最期のキスを交わしながら、クロードの意識はそこで途切れた ――――――……

 

 

 

重い瞼をゆっくり開くと、見慣れない天井があった。
「…………」
ゆっくりと辺りを見回す。すぐ横には人が座っている。
「……ディアス…?…あれ?僕……死んだんじゃ…」
「レナだ」
ディアスはひどく怒っている様子でぶっきらぼうに答えた。
「どおして…」
「?」
「どうして死なせてくれなかったの!?ディアスっ!」
クロードの瞳に涙が溢れる。クロードは続けた。
「あの時…僕以外の人の者になっちゃったはずのディアスが…もう一度僕の所に戻ってきてくれたような気がしてた…。あのまま死ねたら…僕は幸せだったのに…ぐすっ…」
「…クロード…」

「ディアスにはアシュトンがいて、ボーマンさんにもニーネさんが居て、セリーヌさんやレナだって……みんなみんな、好きな人が側にいて……。でも僕は…。僕が地球に帰っても、ディアスを想い続けて…。でも…そのうちディアスは僕なんかのこと、すぐ…忘れちゃうんだろうなって…思ったら……悲しくて…。貴方への想いを抱いたまま…遠く何億光年も離れた地球で、生きるのなんて…考えただけでも耐えられなかった…」
「クロード…」
ディアスは泣きじゃくるクロードを抱きしめる。クロードはその腕を払おうと藻掻いたが、ディアスはきつくきつくクロードを抱きしめたため、離れない。
「やめろよディアス!!ディアスにはっ…アシュトンが…いるだろ?」
「…あいつとは……何もないんだ…」
「う…そ……。でも…ディアス……アシュトンのこと、抱いてただろ?」
「なっ…どうして…そんなこと…」
「偶然、見ちゃったんだ…そしたら…」
クロードは言葉を詰まらせディアスの胸に顔を押しつける。ディアスは抱きしめる腕に力を込め、耳元で囁いた。
「すまない……辛い思いをさせた…。だが…おまえこそ…あの日俺が出ていった後にボーマンに抱かれていたろう?」
「それは……その…ディアスが、行っちゃって…どうしても我慢できなく…なっちゃって…。その…あの…一人でしてたら…ボーマンさんが…」
クロードはディアスの腕の中でもごもごと言葉を濁らせる。
「そうか…」
「ねぇ…ディアス…」
「うん?」
「……あのね…えっと…僕のこと…すき?」
「ああ……好きだ。愛している…」
その一言を聞いてクロードは微笑む。
ディアスはクロードの顎を軽く持ち上げ口づける。その口づけに謝罪も謝礼もすべて詰め込んだ。
「クロード…前の続き……しよう…」
「うん…。ぼく…素直になるからね。……だから」
クロードの台詞は途中でお互いの唇に溶けた。

 

あの時死ななくて本当に良かった。
あのまま死んでしまっていたら…僕は本当に幸せになれなかっただろう…
今こうして生きていて、ディアスとこうしていることが
凄く……幸せ。

END

投稿日:2010-01-01 更新日:

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