「ディ…ディアス……、助けッ……はぁ…」
夜もだいぶ更けた頃、苦しそうに息を切らしながらクロードはノックもせずにディアスの部屋に転がり込んで来た。ディアスは驚いた様子でクロードを見つめる。
クロードは目に涙を溜めて、掠れた小さな声で再び助けてと音を紡いだ。
今日も今日とて、ディアスと本当に些細なことで喧嘩をしてしまったクロードは、憂鬱な気分で酒場に入った。
カウンターの隅の席に腰を下ろし、差し出された水をカラカラさせる。
透明な水の中で、存在を主張している透明な氷がとても綺麗だ。
「はぁ…」
ふと、ため息が漏れる。
どうしていつも自分は本当に些細なことでディアスと口喧嘩をしてしまうのだろうか。ディアスはディアスで、凄く頑固だから自分が折れないと仲直りは出来ない。
はぁ…と、此処に来てから何度目とも分からないため息をクロードは漏らした。
「どうしたんだボウヤ。溜息なんかついて」
「?」
いつの間にか周りには酔っ払った男達が座っていた。台詞と共に吐き出される息が酷くアルコール臭い。
「さっきからずぅ~っとなぁ?…もしかして、コレと喧嘩でもしたのか?」
「……貴方には、関係ないですよ」
今度は別の男が右手の小指をピンと天井へむける。
ある意味図星だったので、クロードは素っ気なく返事を返した。
酔っぱらいの相手をするのは嫌なのでクロードは立ち上がり店を出ようとする。酒場のマスターが冷やかしに来た客へ冷たい視線を送った。(水だけだし)
カラリンと音を立ててクロードが立ち去る。
クロードの後ろ姿を見ながら複数の男達がニヤニヤといやらしい視線を投げ掛けていることに、クロードは当然気付いてはいなかった。
「はぁ…」
店を出て、一つため息。
暫く歩いて、またため息。
ふと、そんなクロードの腕を引き止める手があった。
「よぉ、ボウヤ。そんなに辛いのか?」
「え?」
腕をぐいっと引かれ、振り返ると目の前には先程の男達が3、4人。クロードは何かいやな予感がして腕を振り払い逃げようとした。
が、腕を拘束している手の力が思いの外強くて逃げることが出来ない。
どうにかして逃げようと思考を巡らせていると、抱き寄せられて唇を塞がれた…。
「んっ……」
即座に生暖かい舌が入り込んできて、クロードは虫酸が走った。
するりと何か得体の知れない液体が口内に飛び込んできた。
唇は離れない。
どうすることもできなくて、クロードはその何ともしれぬ液体を飲み込んでしまった。
喉をゆっくりと降りて行ゆく感触がまた気色が悪い。
男はクロードが液体を飲み込むのを確認するとゆっくり唇を離した。
「一体…何を飲ませ……んっ…何っ…?あっ……」
急に膝に力が入らなくなったクロードはその場にがくりと倒れ込んだ。
だんだんと、中心に熱が集まっていくのが分かる。
「あ、あぁ……」
「へへっ…早速効いてきたみたいだな。どれ…」
男はいやらしい笑みを浮かべてクロードのベルトに手をかける。あっという間にベルトをとき、下着の中へ手を滑り込ませた。
「やだっ……やめろぉ…ぅあっ!!」
目に涙を浮かべながら睨み付けるクロードを無視して、男はたち始めていたクロードの物に触れた。
先程の液体の所為なのか、強い快感がクロードの中を駆け抜けて行く。
「じゃあ俺はこっちを可愛がってやろうな」
別の男はそう言ってクロードのシャツをたくし上げて、胸を飾る小さな花にそっと触れた。
クロードは小さな声をあげて背中を仰け反らせる。
「そんなら俺はコレを…」
と、また別の男は指に妖しげな軟膏を付ける。そしてその指をクロードの蕾に無理矢理くわえ込ませた。
突然の痛みにクロードは手足をじたばたさせながら喘ぐ。男は軟膏をクロードの内壁に擦り込ませるように指を動かす。
「あぁっ…やめ……ろっ………ひゃ…」
「ははは、こりゃあいい。そこらの女よりずっとそそるなぁ」
「……たすけ…て…誰か……ディアスっ……」
「ディアスぅ??……もしかして、このボウヤのコレは男なのか?」
「どうりでなぁ、感度が良いわけだ」
「…ディア…ス……たす…」
「助けてくれとは…どういうことだ。それに、今まで何処に行っていた?」
目の前で苦しんでいる様子のクロードを見ても動じずにディアスは冷たく言い放った。
夕食のすぐ後、些細な喧嘩をしてしまい、いつものようにクロードは宿を飛び出していった。だが、それはいつものコトで、ディアスはさほど気にしてはいなかった。一時間ほど経てばクロードの方から折れてくる。
しかし今日は違った。
一時間、二時間と時間が過ぎていってもクロードは帰ってこない。
皆寝静まってしまっても、一向にクロードが帰ってくる気配はない。
だからディアスは表には出さなかったがクロードのことを酷く心配していた。
「…たす…け…て……」
「助けてだけじゃわからん。どうした?」
今度は優しく問いかける。
クロードはディアスに抱きつき、ズボンの上からそっとディアス自信を撫でる。
一撫でして、ディアスを潤んだ瞳で見上げる。
いそいそと自ら上着を脱ぎ、下着を脱ぎ、再びディアスに抱きつこうとするが…
「クロード…コレは、何だ?」
生まれたばかりの姿になったクロードを見て、ディアスが眉間にしわを寄せた。
クロードの体のあちこちについた情事の痕。それは明らかに少し前、自分が付けた物ではない。
「僕を…抱いて……。ねぇ、助けて……はぁっ…」
「何なんだ?コレは」
苦しそうにしがみついてくるクロードを見ても冷静にディアスは問いただす。
クロードは激しく呼吸を繰り返し、ディアスの質問に答えることが出来なかった。ディアスはそんなクロードに少々苛立ちを覚え、クロードの腕をギリッと握りしめた。クロードの顔が苦痛に歪む。
「この痕は何だと聞いているんだ」
「……あの…ね、…くす…薬…飲まされて……それでっ…はぁ…やだぁ…」
「………クロード…」
ぼろぼろと大粒の涙をこぼしながらクロードが抱きついてくる。クロードは泣きながらここまで至った経緯をかいつまんで話した。
「ごめ…なさい……ごめんなさぃ…ぁ……っディアス…欲しいよぉ…」
腕の中で謝罪を繰り返すクロードにディアスは溜息をつき、クロードが望むとおりに自身に触れた。
クロードは歓喜のため息を漏らし、体を大きく反らせる。ディアスが軽く先端を掻くと白濁した液体が手のひらを濡らした。
「……早いな…」
「ん…だってぇ……」
「ほら、もういいだろう?」
少々面倒くさそうにディアスはクロードを寝かしつけようとする。しかし未だ薬が効いているクロードはいやいやと首を振ってディアスを逆にベッドに押しつける。
「やだ……ちゃんとディアスが欲しい…」
ディアスのズボンを無理矢理剥ぎ取り、兆候を示しはじめている彼を銜えた。
「ん…ぅ、ふっ…」
ぴちゃぴちゃと嫌らしい音を立てながらクロードはディアスに必死になりながらしゃぶりついている。ディアスは驚いて自分を銜えているクロードを見つめ、小さく溜息をついて彼を引き剥がした。
「ぁ……っ…」
クロードは夢中になっていたおもちゃを取り上げられた子犬のような顔をしてディアスを見上げた。
「…下手だ」
さらりといいのけるとディアスはクロードを銜え込んだ。突然の温かい刺激にクロードは躰を震わせる。
ディアスはクロード自信を根本まで口に含み、ゆっくりと舌先で弄くりながら先端まで舐めあげた後、再び深く銜えこむ。
「はぁっ!!…ディアスッ…も、やぁ…」
クロードは瞳に涙を浮かべディアスの髪を握りしめ腰を僅かに揺らしながら快感を訴える。そんなクロードを確認するとディアスは攻めるのをやめてクロードを見つめ直す。
「こうするんだ。…わかったか?」
限界が近付いて来ているにもかかわらず行為をやめたディアスに多少の苛立ちを感じながらもクロードはこくりと頷き、再びディアスを銜えた。自分がしてもらったように、ディアスに奉仕する。
「そうだ、クロード………上手いぞ」
ディアスから流れ出る蜜を逃さぬようにクロードはじゅるじゅると淫らな音を立てていた。
「はぁっ……クロードっ…!」
熱いねっとりとした液体がクロードの口内に流れ込んでくると、クロードは戸惑う様子もなくそれを飲み込む。
ディアスはクロードが飲み込むのを確認すると少し微笑み、彼の頭を優しく撫でた。
「ねぇ…ディアスぅ…僕もっ……」
そう呟いたクロードは自身をディアスの口の中に押し込める。ディアスはクロードの望み通り彼をを貪る。
「あっ…はぁ……ぁっ…あぁっっ!!」
クロードは激しく腰を揺らして艶やかな喘ぎ声を発し、ディアスの中に欲望を吐き出した。
「ディアス…」
荒い呼吸を繰り返しながら、クロードはディアスの首に腕をまわしてキスを請う。そんなクロードに困ったようなそれでいて嬉しそうな表情でディアスはクロードを抱きしめ軽く口づける。
唇が触れ合うと、クロードがディアスの中に入り込んできて舌をからめ取り、熱く深い口づけに変わった。
いつもならばほぼ絶対にないだろうクロードの積極的な行動にディアスは眼を細める。例えその行動が薬の所為だったとしても、ディアスには嬉しく思えた。
薬というもの一つであの幼い青年をここまで変えてしまえるものなのか…。そんな事を考えながらクロードのキスをうけていると、クロードは再び熱くなり始めたディアスに指を絡めて唇を離し、にこりと笑んだ。
「……ディアスがね…欲しいの…」
小さな声で甘えるように呟いたクロードはディアスの上に腰を下し、まだ何の準備も施されていないそこにディアスを飲み込んでゆく。ディアスはそんなクロードを呆然と見つめる事しかできなかった。
ぎちぎちときつそうな音と共に生暖かい液体の感触がディアスに伝わり、眉を顰めた。
「あ、あぁ……っ…ふ…ぅ……」
「お…おい、クロード…!」
まだお互いに数える程度しか体を交えていないこともあってか、クロードは挿入の瞬間いつも痛がっていた。顔いっぱいに苦痛の表情を浮かべ、それでもディアスを受け入れようと必至になっていたものだった。ディアスはそんなクロードも可愛いと思っている。
それが、今は。
ディアスと完全に繋がったクロードはゆっくりと自ら腰を淫らに振り始めた。自分の動きに合わせるようにクロードは喘ぐ。
この行為に何処かの莫迦が飲ませたらしい薬が絡んでいなかったとしたら、このクロードを素直に可愛いと思うことが出来ていただろうか、とディアスは思う。それくらい、普段のクロードとは違いすぎていた。
これはクロードではない
そんな思いがディアスの心を支配する。
名前を呼んでやると、クロードはビクリと体を震わせ反応する。感じているのだろう。ますますディアスを求める動きが激しくなった。
「クロード…」
(早く…帰ってこい…)
そう思いながら、ディアスにはクロードの行為に答えることしか出来なかった。
「んっ………」
クロードはディアスの腕の中で気持ちよさそうに眠っていた。
一方ディアスは、前髪をかきあげて深い溜息をつく。
カーテンを開けて窓の外を見た時、すでに白み始めている空が美しいとディアスは思った。
「クロード」
あの後、結局朝方までずっとクロードにつきあわされてしまった。さすがのディアスも疲れてしまったのだが、どうも眠る気になれない。
すやすやと眠るクロードの髪をディアスは弄ぶ。クロードは擽ったそうに寝返りをうった。
「んっ……ぁれ…、ディアス…」
それでもかまわずに髪を弄くっていたら、クロードが目を覚ました。不思議そうな顔をしてディアスを見上げている。
「まったく…お前にも困ったものだ」
「え? なに、どういうこと…?」
「………覚えていないのか?」
ディアスの言葉にクロードは首をかしげた。暫く考え込むように俯いていたクロードは、何かを思い出したのか震えながら青ざめた顔でディアスを見上げる。
「ごっ……ごめんなさいっ…僕っ…」
「ん?」
「僕…ディアス以外の人と……」
クロードの云う意味に気が付いたのか、ディアスは溜息をつく。その溜息にクロードは眉根を寄せ、悲しそうな顔になる。
ディアスは、そんなクロードの頭をくしゃりと撫でた。
「……ディアス?」
「そのことなら、もう聞いた。覚えていないのか?」
首をかしげるクロードに、ディアスは不適な微笑を漏らすと、事の顛末を語りはじめた。
「……僕…、本当に、そんなこと……したの?」
話を聞いたクロードは、顔をこれ以上無いほどに真っ赤に染まらせ困惑した表情でディアスを見上げていた。
もし、今聞いた話の通りなら、恥ずかしくて仕方がない。クロードはそんな顔をしていた。
「えっと…その、ディアス…僕…んっ…」
気まずそうに、何か言い出そうとしたクロードの唇を、ディアスは自分のそれで塞ぐ。少しだけ、抵抗するふうをみせてクロードは身じろいだが、すぐに抵抗をやめ、ディアスのされるがままになっていた。
「クロード」
「………何?」
唇の呪縛から解かれ、ディアスの腕の中に抱きしめられていたクロードは名前を呼ばれて少し恨めしそうな表情でディアスを見上げた。その行動が可愛くて、ディアスが笑うと、クロードはすでに真っ赤になっていた頬をまたこれ以上ない程に赤く染める。
「もう、夜に一人で出て行くな。…俺も、悪かったから…」
「ディアス……」
朝が、もうすでにやって来ていた。柔らかな朝日と鳥の静かな歌声が二人を包んでいた。
「僕の方こそ、色々迷惑かけちゃったみたいで…ごめんなさい」
「わかったなら、いいだろう」
偉そうな口調のディアスに、クロードはむっとしたようだった。
「何だよ、それ…」
「いいから。いい加減寝るぞ。もう朝だ」
「……………(すぐそうやってはぐらかすんだよなぁ…)」
クロードは溜息をつきながら、自分を抱きかかえるようにして横になるディアスに寄り添う。
(…ま、いっか♪)
なぜかクロードの心は暖かいもので満たされていた。ディアスの不器用な優しさに救われて、再び眠りにつく。
その日は結局、一日休日になってしまったようだった。
END