スターオーシャン

イヴとクリスマスと。

「ねぇ、レナ?」
「…何ですか、セリーヌさん」
夕食の後片づけをしていたレナはセリーヌに声をかけられて、手を休める。
「…最近クロードやたら眠そうじゃありません?」
「あぁ…それはですね……」

最近のクロードはどうもおかしい。夜遅くまで何かをしているのか、戦闘中も、食事の時も、どんなときでも眠そうな顔をして時々大きな欠伸をしている。
前は戦闘中はきりっとしていたのだが、最近はモンスターを目の前に欠伸をしていて不利な状況に陥ったことが度々ある。そのため、クロードは本日より、暫く戦闘参加を認められなくなった。

「クロードは今必死なんですよvv」
「…必死??どういうことですの??」
「うふふふ……それはですね…」

 

 

イヴとクリスマスと。

 

 

「………すまない…」
ディアスが珍しく、本当にしょぼんとしてクロードに謝っている。
今宵は12月24日。そう、クリスマスイヴ。
「ディアスの莫迦っ!!ディアスはいつもそうだ…。不器用なのはしょうがないよ、でも…」
クロードの眼に涙が浮かぶ。…一体どうしたのだろうか。
「まさかこんなコトするなんて思わなかった……もういいよ。お休み…」
バラバラになってしまったクリスマスプレゼントを残し、クロードはディアスの部屋を後にした。
「…クロード……」

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クロードはディアスの為にマフラーを編んでいた。
レナに頼んで、こっそり編み物を教えて貰い、こつこつと寝る間も惜しんで一生懸命編んだのだ。
クリスマスの夜にディアスにプレゼントをして彼をビックリさせてやるつもりだった。
もちろん、エクスペルの文化にはクリスマスなんて存在しない。ディアスにも、クリスマスのことを話したことはなかった。だからこそ…突然プレゼントをして驚かせて、クリスマスの話をして、美味しい物を食べて…楽しくディアスと過ごしたいとクロードは思っていたのだった。
何故か自然と何でも話せてしまうレナだけがこのことを知っていた。

何も言わなかった自分も悪かったのかもしれないけれど。

自室でぼーっとしているディアスの後ろに忍び寄って、そっとマフラーを付けよう…と。
そんな乙女チックなことを考えた自分が莫迦だったのだと。
普通に渡せば良かったのだと。

そんな後悔の念がクロードの頭を駆けめぐる。
急に後ろから首に何かを巻き付けられたら誰だって驚くだろう。きっと自分も驚く。
「やっぱり…首を絞められるって思ったのかなぁ…?」
アーリアから飛び出したディアスがどんな生活を送っていたのかをクロードは全く知らない。
もしかすると、命を狙われることもあってあんな風に後ろから首を絞められそうになったことがあるのかもしれない。
だとすればディアスの行動も分からなく無い。
でも、クロードは思ってもいなかったのだ。
自分からのプレゼントが彼の剣で容赦なく切り刻まれてしまうなんて………
胸の奥からこみ上げてくるどうしようもない悲しさと虚しさに耐えきれず、クロードは声をあげて泣いた。

 
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一方ディアスはひどく困っていた。
首を絞められるのかと思いこんで切り裂いた物は、クロードが自分にプレゼントしようとした物だったらしい。
だがディアスにはプレゼントを貰うような心当たりが全くないわけで…。
とりあえず、レナを探そうと部屋を出てた。
あちこち探し回って、漸くディアスは調理場で何か料理をしているレナを発見した。
「…レナ何をしているんだ?夕食はもうすんだ筈だが…」
「え!?ディアス??」
「…何だ?」
レナがクロードに頼まれていた手筈だと、クロードが料理を取りに来るコトになっていた。
でも、なかなかクロードは来ないし、誰かが来たと思えばディアス。レナは少しパニックになる。
「ディアス…どうしたの?…クロードは??」
「………その事なんだが…」

ディアスはレナに先程の出来事を話した。レナはディアスの話を神妙な面持ちで聞いた後、小さく溜息をつく。

「…明日はね、クリスマスって言う特別な日らしいの。クロードが言ってたわ」
レナは準備してあったケーキをディアスに渡す。
「此処にある料理はね、全部クロードが作った物なの。地球ではクリスマスをこんな料理で祝うんですって。…クロードはね、貴方をビックリさせたかったのよ」

 

  「24日はクリスマスじゃなくって『クリスマスイヴ』っていう……そう、前夜祭ってところかな?」

  「クリスマスは僕、大切な皆と一緒に祝いたいんだ。…皆、僕のわがままに付き合ってくれるかな?」

  「だから、イヴの日は…その…ディアスと二人だけで祝いたいんだ。レナ、ごめんな手伝わせちゃって…」

  「ディアス…マフラー喜んでくれるといいけど…」

  「あはは。戦闘出ちゃ駄目だってさ。…でもコレで集中してプレゼント用意できるね♪」

  「レナ見て。コレさ、クリスマスツリーって言うんだ。こういうのを沢山の家が飾るんだよ」

  「手伝ってくれて有り難うレナ。はい、このマフラーは僕からのお礼」

 

レナの話を黙って聞いていたディアスは、調理場を駆けだしてクロードの部屋へと向かった。
再び溜息をついて、一言。
「全く…二人とも世話が焼けるわね」

 
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「クロード!!」
少々乱暴にディアスはクロードの部屋の扉を開いて中に駆け込んだ。クロードは泣き疲れてベッドの上で眠ってしまっている。ディアスは静かにクロードの側に近寄り、彼の金色の髪を優しく撫でた。
「……ん…」
クロードの睫が微かに動く。
やがてゆっくりと目を開き、ディアスの姿を確認してその瞳は困惑にゆれた。
「……ディアス??」
「…レナからすべて聞いた。……すまん…」
そう告げて、ディアスはクロードを抱きしめた。

沈黙が続く。…ディアスの腕の中にいるクロードの表情は読みとることが出来ない。

「…ごめんね……ディアス…」
「?」
「僕が…僕がいけなかったんだ。…ディアスが謝る必要なんて何処にもないんだ。…謝るべきなのは、僕の方なんだ。……本当に…ごめん……」
ごめんと謝罪を繰り返すクロードの声をディアスは唇で封じた。
「お前は何も悪くない。俺のために必死になってくれて…有り難う」
クロードはこの言葉を聞いてまた涙を浮かべる。

迷惑をかけてばかりの自分に有り難うと言ってくれるディアス…。
彼がこんなに優しいから…自分は彼に必要以上に甘えてしまうんだろうなと考えて目をこする。

抱きしめてくれるディアスの腕が嬉しくて。
心の中でごめんなさいと有り難うを繰り返した。

Merry Christmas

投稿日:2010-01-01 更新日:

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