『人生の中で子孫を残すことは大切なことです』
ふとディアスと体を合わせている最中に、学生の時授業で習ったことが僕の頭をよぎった。
「……し…そん……?」
思わず、口に出してしまってディアスが不思議そうに僕を見ている。
「…どうした?」
「うぅん、なんでもない…気にしないで…」
笑顔でそう応えるとディアスは少し微笑んで僕の唇に優しくキスをくれた。
彼の唇は次第に下の方へと下がって行く。
ディアスからのキス…
このキスの意味は…何?
……恐い…
気がついたら僕は彼の体を突き飛ばしていた。ディアスは珍しく驚いた表情をあらわにする。
僕はディアスの顔を見るのが恐くてシーツに包まってしまった。
「ごめん……やっぱり今日は、したくない…」
「…どういうことだ?」
シーツの向こうからディアスの不機嫌な声が聞こえる。
言えるわけない…何だかディアスが恐くなっただなんて…。言ったら…彼はもう僕を愛してくれなくなってしまうかもしれない…
「……ごめん」
どう言っていいか分からなくなって、僕の口から弱々しくでたのは謝罪の言葉だった。
「でも、ディアスを嫌いになったわけじゃないからね!…ディアスのことは…凄く、大好きだもん…」
それは本当。
ディアスは凄く大好きだし、大切だ。絶対に失いたくない…
なのにどうして…急に恐くなったんだろう…
わからない……
ディアスは諦めたのか自分の部屋に戻って行った。
僕はシーツから顔を出して天井を見上げる。
ディアスからのキスが恐かった。
とろけそうなくらい優しかったその口付けが何の為なのか分からなくて恐かったんだと思う。
僕たちがセックスすることに何の意味が有るんだろう…
僕たちは男同士だから、子供が出来るわけじゃ無い。違う。作ることが出来ない。
…子供が欲しい…
ディアスと愛し合った証拠が欲しい…
そんなことを考えていたら何時のまにか僕は深い眠りに落ちてしまっていた…
それからというもの、僕は度々あったディアスからの誘いを全て拒んだ。
僕だってディアスと本当にしたくないわけじゃ無い。
ただ…今は彼と離れていたかった。彼と離れて自分の気持ちに整理を付けたかったんだ。ディアスに触れると…悲しくなるんだ。
「…クロード、いい加減にしろ」
今日もまた彼の誘いを拒むと彼は苛立った表情で僕の腕を強く掴んだ。
「…俺の事が嫌いならそう言え」
「……え?」
「言いにくいのは分かるが…」
「違う!!ディアスの事嫌いになんてなってない!!」
僕は彼の青い髪をぎゅっと掴んでその目を見つめる。
「じゃあ何故俺を拒む?」
「そっ……それは…」
「…教えてくれ。…いくら俺でも理由も無く拒まれては…不安になる」
珍しく弱々しい声。僕はズキっと胸が痛んだ。
「でも…言ったら絶対ディアスを困らせちゃう……」
「…どういうことだ?」
ディアスは僕に優しく問い掛けてくる。
…だって…
「…僕はディアスのことが好きだよ。この気持ちは絶対誰にも負けないと思う…。だから……だから…」
何だか言いずらくて言葉が詰まる。ディアスの瞳はその先の言葉を見ていた。
「子供。…子供が欲しくなっちゃったんだ…。ゴメン…僕のせいでディアスの家系も僕の家系も…途切れちゃうね…」
「…………」
「…僕達が愛し合った証が欲しいんだ…。でも僕達は男同士だろ?…どんなに望んでも僕は…」
知らず知らずの内に僕は涙を流していて……
そんな僕の涙をディアスは優しく拭った後、ふわりと僕を抱き締めてくれた。
「…ディアス…」
「俺のせいだな…」
「…え?」
「俺はそんな家系とかそんなくだらないことは気にしていない。だが俺がお前を愛したせいでお前を苦しめていたんだな…」
…ディアスの言っていることはおかしい。
ディアスの言い方は僕達が愛し合うことはいけない事って言ってるみたいだ…。
僕はディアスの背に腕をまわしてきゅっと抱きしめる。
「クロード?」
「ごめん、ごめんね、ディアス…。ディアスは悪くないよ。…誰も悪くなんて無いから、そんな…僕達が愛し合っちゃいけないみたいな言い方しないでよ……子供が出来ないのはしょうがないことだけど、僕達は……」
また勝手に涙が溢れてきて言葉が詰まる。
これ以上泣いてディアスを困らせるものかって思ったから自分の腕でぐっと涙を拭った。
自分の気持ちが見つかった。
まだ…子供については少し未練があるけれど、やっぱり僕はディアスに愛されていたい。
「ディアス、しよ?僕、ディアスに愛されていたい…」
証拠は残らなくても僕達は愛し合えるのだから……