僕は今でも貴方のことを心から愛しています。
貴方だって、そうだよね…?
ヒトリ
あの戦いから二年がたった。オペラ達からのSOSで再び再会することになろうとは思わなかった。
「…ん……」
クロードは狭い宇宙船の一人部屋の寝台の上で寝返りを打った。まだ病み上がりということであてがわれた一人部屋は今のクロードにとっては気持ちの整理を付けるのに好都合だった。
特に何もすることも無くただただ愛しい人の事を思いながらごろごろする。考えないようにと、己に言い聞かせても頭を過ぎるのは彼の事ばかりだった。
2年前の、彼の言葉がクロードの頭につい昨日の事のように蘇ってくる。
「泣くな。…二度と会えないわけじゃないだろう?」
「そうだけど…でも…」
「再会したら、嫌と言う程付き合って貰うからな」
そう言ってニヤリと似合わない不適な笑みを漏らした彼。
意味を理解するのにだいぶ時間がかかった僕は恥ずかしさを隠すように宇宙船に乗り込んでいったんだ…
地球になんて帰るんじゃなかった…
そんな後悔の念がクロードの思考を支配していた。
いくらレナ達を留学させる為だとはいえ…、もし、彼と離れずに一緒にいたら…
先日、バニスから宇宙船にやって来たクロードは2年ぶりに愛しい恋人の後ろ姿を見た。二年ぶりの再会にクロードの心は躍っていた。
「!…ディア…ス?」
その後ろ姿に声をかけようとしたその時、クロードははっと気がついた。
ディアスが誰かを抱き締めている…。
その「誰か」を クロードも良く知っていた。
(嘘だ…冗談だろ…?どうしてディアス…チサトさんと…)
クロードの思考はストップし、体は凍ったように動かなくなった。どうする事も出来なくなったクロードの瞳から一筋、涙が零れ落ちていた……。
ふと時計に目をやると、もう夜中になっている。机の上には夕飯が置いてあった。…いつの間にか眠っていたらしい。
クロードはまた寝台の上でゴロリと寝返りをうち、ため息をついた。
いつまで経っても胸の苦しさが治まらない。それは病み上がりだからとかいう理由でないことをクロードは百も承知している。ぎゅっと締め付けられるような痛みにクロードは涙を流す。
コンコン
遠慮がちに扉をノックする音が聞こえ、クロードは慌てて流れた涙を腕で乱暴にぬぐった。
「…どうぞ」
扉に背を向けた状態で小さな声でノックに答えた。声が聞こえたかは定かではないが、扉が開いて、閉まる音がした。クロードはちらりと横目で入ってきた人物を確認する。
「……ディアス……」
「クロード、具合はどうだ?」
「…別に…平気だよ」
「そうか…」
(…一体何しに来たんだろう…ディアス…)
きっと彼は自分があの場面にいたことに気付いていただろう。人の気配をすぐに察する彼が気がついていなかったという方がおかしい。
「…別れ話でもしにきたの?」
クロードは思った通りのことを言葉にかえた。途端にクロードの胸はまた痛くなる。
(何言ってるんだよ…僕…)
「……………」
(何か喋ってよ。…ディアスが無口なのは知ってるけどさぁ)
嫌な沈黙が部屋の中を支配していた。ディアスは相変わらず何か喋るような様子も見せない。
「…用がないなら、さっさと出てってよ。今は平気だけど…僕、具合悪くなりそうだから」
「…すまん」
そう、一言言い残し、ディアスは去っていってしまった。
「…ホントに…別れ話しに来たんだろうなぁ…」
しばらく経って、クロードはぽつりと呟いた。
「…そうじゃないなら、そうじゃないって…言って…くれた、だろうし…」
クロードの独り言はだんだんと涙声になって行き聞き取りにくくなっていった。
再び寝返りを打ったクロードの視界に白い封筒が入ってきてクロードは首をかしげる。
「……あれ?…なんだろう…」
ベッドのそばにあるテーブルの上に乗っている封筒にはディアスの達筆な文字で「クロードへ」とかいてあった。
クロードは恐る恐るその封筒の封を切った。
中には数枚のディアスからの手紙が入っていた。
お前ももう知っているだろうから敢えて書かないが、一つだけ伝えておきたいことがある。
俺は本当にお前を愛していた。
今はお前よりあいつのことを愛しているが、二年前の気持ちは嘘ではなかった。
嘘だと思うかもしれないが、信じて欲しい。
クロード、お前はまだ若い。だから、俺のことは早く忘れて別な人と幸せになれ。
こんな形で終わる事になってしまってお前には悪いことをしたと思っている。
すまん。
「…なんだよ…それ…」
クロードの涙が手紙をぬらし、文字をぼかした。次々と溢れる涙はまるで止まることを忘れたように手紙を濡らしていく。
「こんな…手紙なんて…」
クロードは涙で濡れた手紙を丁寧にたたみ、封筒の中へ戻した。
「どうせなら…口で言ってほしかった…。こんな…手紙なんて…卑怯だよ、ディアス…」
今すぐにでもこの手紙を封筒ごと破って捨ててしまいたかった。だけど、そうすることができない。初めてもらったディアスからの手紙を破って捨てるなんて、クロードにはできなかった。
たとえその内容が、別れ話であったとしても…。
クロードはその手紙を大事そうに自分の荷物の中にしまった。
涙は未だ止まることを知らず流れていく。
「もう一度抱きしめてほしかった。
もう一度キスしてほしかった。
もう一度…嘘でもいいから愛してるって言ってほしかった……」
絞り出すよなクロードの声は夜の闇に吸い込まれていった。
End......